【怪異】金魚すくいで持ち帰った一匹、ただの魚じゃなくて祭りの記憶を喋り出す
夏祭りの帰りに拾った金魚が、麦茶を嫌がり、二択に答え、ついには水面から声を響かせる。最初は嘘松扱いだったスレが、最後には全員で金魚の水質を心配する異様な流れに。
金魚すくいの袋を持って帰ってきたら、机の上でこっちを見てる。さっき俺が麦茶こぼした瞬間だけ明らかに呆れた顔した。
動画は撮ろうとした。
スマホを向けたら、金魚が袋の底に沈んだ。
画面を下げると浮く。
上げると沈む。
撮られるのを嫌がっているようだった。
ずっとROMってたけど、検証するなら紙の位置をランダムにした方がいいと思う。
あと同じペン、同じ紙、同じ大きさ。
OPがどっちを見てるかでも寄る可能性あるから、置いたあと目をそらすとか。
金魚相手に何言ってんだって自分でも思う。
…またROMに戻る
十円玉で左右を決めることにした。
表なら「はい」を左。
裏なら右。
五回やった。
麦茶が嫌いか、は全部「はい」だった。
机の下を見た。
祭りの札が落ちていた。
細い赤い紐がついている。
屋台で金魚の袋を持たされたとき、袋の口に結ばれていたものと同じだった。
紙に「その時のことを知っているか」と書いた。
左に「はい」。
右に「いいえ」。
金魚は少しだけ沈んだ。
それから、左へ泳いだ。
黙ってたけど一言言わせてくれ。
赤い紐の札、みず、祭り、祖父の金魚鉢、提灯の赤。
全部が水場に子供を近づけないための目印に見える。
でも金魚だけが「見張り」側にいるのが変なんだよ。
普通、守るなら大人が持つ。
子供の腕につける札を魚が覚えてるなら、その魚は子供側じゃなくて、子供を数えてた側かもしれない。
…またROMに戻る
机の上が濡れていた。
水槽からこぼれた量ではなかった。
紙の「清次」の字が滲んだ。
水面から声がした。
小さい声だった。
聞き取れなかった。
押し入れを開けた。
母が置いていった古い箱があった。
中に金魚鉢があった。
丸いガラスだった。
底に、細いひびがあった。
青い石が三つ残っていた。
水面の声が、少しはっきりした。
清次は帰った。
そう聞こえた。
金魚は動かなかった。
口も動いていなかった。
紙に「どうしたい」と書いた。
左に「ここ」。
右に「まつり」。
金魚は右へ行った。
水面の声がした。
つれていけ。
もう一枚書いた。
「俺」
「清次」
「だれ」
金魚は「清次」の前で止まった。
水鉢から、低い声がした。
かえせ。
泡が増えた。
丸い泡が、ひらがなの形に寄った。
みずを
かえろ
そう読めた。
袋の水はぬるかった。
金魚は泡文字の下で止まっている。
俺は袋の口を閉じた。
祭り跡の水鉢から離れた。
朝になった。
バケツの水面に窓の光が映っていた。
金魚はその下をゆっくり回っている。
俺を見た。
何も言わなかった。
水は澄んでいた。